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"WHAT'S HYPHY" text by 二木崇

"WHAT'S HYPHY"

“I Come Frome East Oakland Where The Youngstas Get Hyphy…”
ベイエリア・レジェンドことトゥー・ショート(ザ・パックの後見人でもある)の16作目となるアルバムのアートワークに仕込まれていたその文言にもある様に、今や(オークランドやウ゛ァレホをはじめとする)北カルフォルニアはべイエリアの“名物”と言えばハイフィに尽きる!とされている。Hyper activeな状態(キレるくらいメッチャHigh!)を指すスラングから派生したそのサウンドは、“イエイ・エリア版クランク”とでも言えばいいのだろうか。 しかしながらTR808のキック・サウンドやシンセ/電子音を基調とするミニマルなダンス・ミュージック共通点というこそあれ(あとマイアミ・ベースも、か...)、ハイフィーはハイフィー。よりアップテンポで、ヴォーカル・サンプリングの取り入れ方も違えば、血圧高めのラップ・スタイルも一種のドクトクだ。要するにハイフィーはクランクがかつてそうだったように”ローカルだからこそ”の魅力で溢れた、ストレス発散系爆走ムーヴメントなのだ。ハイフィーを全米に広めた、とされるE-40の12作目のアルバム『My Ghetto Report Card』(全米ラップ・チャート一位!)を自分のレーベル=BMEからリリースした"King Of Crunk"ことリル・ジョンもその辺りの事情をよく弁えて同作をプロデュースしたと思われる。

 90年代後半はLAのGファンクの影響下にあったモブ.サウンドが一般的だったとされる、歴史床しく幾多のサウンド/スタイルを生み出してきたベイエリアだけに、”新しい何か”を創り出そうという気概も強いのだろう。E-40を筆頭とするヴェテランからその息子ドゥループ・E(現在19歳!)の世代まで、”団結力”という部分でも他のエリア以上のモノがあるように感じられてならない。そして、2パックやE-40、ジェイ・Z、イグジビット、バスタ、スヌープ(新作にもハイフィー・チューン有)らとの仕事でも知られ、「Hyphy」や「Go Dumb」といった決定的なハイフィ・クラシックを放っているフェデレーションのサウンド・プロデューサーでもあるリック・ロック(元コスミック・スロップ・ショップ)や、先のドゥループ・Eといったトラック面でのキーマンこそいるが、それが特定の誰かのシグネチャー・サウンドではない、という事実もハイフィーをハイフィーたらしめているのではないかと…。

 カリフォルニア北部ディヴィスという街まで生まれた育ったDJシャドウが最新作『The Outsider』にE-40やフェデレーション(含エルドラド・レッド)、キーク・ダ・スニーク、ターフ.トーク、ナンプにザ・チームといったハイフィー・シーンの猛者たちを招いて自分なりのハイフィー・ サウンドを展開して見せたのもある種の必然性に基づくものだ。つまりは、サンプリング・ミュージックとはまた別角度のカジュアルな温故知新の精神があり、しかも他ジャンルのファンをも巻き込める可能性も極めて高い、その未来派野郎たちを狂喜させる”電気仕掛けの興奮剤”を、同じ北部出身の自分が今イジらんでどーする!!!と。DJシャドウ責任監修によるこの日本独自企画盤『The Hyphy Movement』は、純粋に旬なムーヴメントを体感する為のエントランス的役割のコンピとしても有効だが、彼が例の問題作(にして大傑作!)『The Outsider』で何故それに挑んだのか?という疑問にも明解に答えてくれる、これ以上ないサブ・テキスト的サウンド・トラックとなっている点にも注目して頂きたい。

 ”湾岸伝説”マック・ドレー(ベスト盤が何枚もあり、とにかく多作で知られるアクティヴィストの彼はネリーと時を同じくして2作目同時リリース記録を達成するが、同年に銃殺されている)の十八番だった「Thizzelle Dance」(エクスタシー譛歌)から、スリー・タイムス・クレイジー時代(97年)に既に”Hyphy”というキーワードをリリックに盛り込んでいたキーク・ダ・スニーク(P.S.D.、メッシー・マーヴとのユニット作も強力!!)の代表曲「Super Hyphy」、E-40の従兄弟ターフ・トークの文字通り”激ヤバBeat”の「It's Ah Slumper」、同名の清涼飲料水のキャンペーン・ソングにもなったザ・チームの「Hyphy Juice」やフィジカル・リリースが無いにも関らずMy Space.comでの配信だけでヒットしたミスターF.A.B&ドゥループ・Eの曲に、アングラ・ヒーローズ=ザイオンIがベイの個性派を集めた地元アンセムのドゥループ・E.リミックス他、外せない重要曲がズラリ。ズバリ必聴!の好内容だ。また同時リリースとなる”ハイフィー・シーンをREPするフィリピン系ラッパー”ナンプの代表作『Thw Nump Yard』も聴き逃し厳禁クラスのいまだアツいブツ、だったりする。E-40、フェデレーションをfeatしたスモーキン・アンセム「I Gott Grapers」と、ベイ・スタイルのグラサン自慢話「Stunna Shadez」の2大ヒット曲やゴリラピーノ・ユニット名義で出ていた「F.O.B.」等以外も良曲揃い&ゲスト陣も抜かりない出来映えで、”単体でも充分に通用する”アーティストパワーを持っていることがよくわかる内容となっている。

スタジオ・エンジニア上がりでテクニカルな知識が豊富で、キャラ立ち も良い(ノンストップ・ギャグマシーン!)彼はまさにベイのミ〜ヤ〜サ〜コ〜です!もといリル・ジョン的存在!?何と言っても同作は自身の”ベイ・ラヴ”とマグジー(E-40の弟でもモッシーの中心人物)の”30/30”、そして御大King Of Slang=E-40の”シック・ウィズ・イット”のトリプル・ネームでの激押し盤なのだから!また日本盤には「I Gott Graperz」の話題のM.I.A.(ティンバランドとも共演したばかり!)、アップル・デ・アップ(BEPのメンバー、にしてハーフ・フィリピーノ)を加えたリミックスが追加収録され、更にハイフィー・カルチャーの空気感がダイレクトに伝わる映像集=DVDとの2枚組、というハイ・テンション仕様...。
これ以上は語るまい。まずは”体感”すべし。Let's Going Dumb!!

2007年4月 二木 崇(D-ST.ENT.)

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